July 17, 2005

フェリス-第四章-

bar グラーヴ教団の制圧作戦は無事、大成功に終わったかに見えたが主犯格の大教祖は僕らの行動をいち早く察知しすでに教祖殿はもぬけの空だった。何十人という教徒達の犠牲は大教祖にどう写っているのだろうか?よくやったと褒め称えているのか、自分の身の安否だけを感じているのか。僕にはわからない。
 抵抗した息のある全ての教徒達は国際警察に連衡されていった。辺りは物騒がしい情景から段々と落ち着きを取り戻していった。

 「おい、早く救護班をこっちに手配してもらえ」
 「よし、わかった。」
 この子は誰なんだろう。いや、そんなこと考えてる暇はない。この子の命を助けるのが先だ。後ろでは柴田が救護班に連絡を取っている。大丈夫、大丈夫だ。そんな思いとは裏腹に突然のこの不思議な少女との出会いに僕は少し動揺していた。
 「…こちら、LC4部隊の柴田だ。…あぁそうだ。現在、79階のFブロックにて生存者発見だ。至急、救護班を呼んでくれ。あぁ、頼む。え?あぁそうだ。女の子だ。あぁそうだ。わかった。こちらで保護することにする。了解」
 「なんだって?」
 「なんか、裏がありそうだぞ。あいつら、この翼のあるこの子のことを知ってたぞ。逃げないように俺らで保護しろだってよ。まぁ上官命令だから保護しろったら保護だな」
 「そうか」
 「どうだ?意識あるか?」
 任務時の非常用として持たされているミネラルドリンクを彼女の口元に当てる。
 「ほら、大丈夫だよ。飲んでごらん。」
 彼女の上半身を抱きかかえながら、唇にミネラルドリンクをそっと添える。すると無意識のうちから彼女はそれをゆっくりと口の中へ流し込む。少しずつ減っていくドリンクを見ながら、彼女も除々に意識を取り戻しているのだろう。
 「おぉ~飲んでるじゃねぇか!はは」
 彼女を抱きかかえながら、どうすることも出来ない僕ら。そして、後ろからいくつもの走る足音が聞こえてきた。
 「ん?来たみたいだな」
 部屋に入ってきたのは、要請した救護班とはまるで別の部隊だった。彼らはまるで危険度A級の細菌を扱うような全身を覆うスーツと着用し、丸く切り取られた目の部分と対ガス呼吸器をつけた口以外はただの人の形をした人形にしか見えない。
 「これか?」
 「そうです」
 「よし、任務に戻っていいぞ。後は我々が処理する」
 「処理って殺すってことですか?」
 「殺しはしない。ただ、ちょっとばかり研究に協力してもらうだけだ」
 「研究ってこの子をどうするんですか?」
 「そこまで君達に教える義務はない!早く任務に戻らんか!」
 ちっ。やつらは全身スーツで覆われている。こんな小さな舌打ちなんて聞こえるはずはない、だったらもっと大きな声で舌打ちすればよかったと思う。彼らはタンカではなく、厳重に固められたジュラルミンケースのような箱に彼女を入れ、大至急帰還した。その行く先は病院ではなく研究所であることは間違いないだろう。なんだかやるせない気持ちで胸がはちきれそうだった。
 グラーヴ教団のビルの屋上から、連れ去られた彼女のブタを見て、胸が熱くなった。僕らが今日行った任務とは…本当の目的はなんだったのか…。

 「おじちゃん、俺、ビールと~後は…そうだな。今日はバイオ枝豆一つちょうだいよ。宮崎、お前はどうする?」
 「あまり食欲ないんだ。強めの酒をもらえないかな?」
 「だってよ。おじちゃん、よろしく~」
 任務の後、二人でよく来るバーに足を向けた。ここは見かけはバーだが、出す料理はまさに居酒屋。気取った雰囲気が好きなわりに、日本の居酒屋のようなメニューが好きな柴田には持ってこいの店だ。何度も柴田に連れられて行くようになって、とうとう常連になってしまった。
 「へい、おまち。ビールと枝豆ね。あとは強めのウイッチを一つ」
 「んじゃ、おつかれ。…っか~美味いね。仕事後はこれに限るな!」
 自分のペースで飲むやつ程やっかいなのはいない。一人ではしゃいでいる。柴田を横目に強めのウイッチを飲む。
 「なぁ柴田、今日の任務なんだけどさ」
 「あん?」
 「あの子、何者なんだろうな」
 「は?今日の任務とあの子関係ないだろ?」
 「いや、そうなんだけど。お前の言ってた通りなんか裏があるんじゃないかって思うんだよな」
 「あぁ~特殊科学班が来たってことはなんかあるだろうな」
 「なんか許せなくてさ。自分自身に対してっていうか、あの子、教団の子じゃないんだし…その、自由にしてやってもいいんじゃないかって」
 「はっはっはっは!」
 「何がおかしいんだよ!」
 「お前と俺は気が合うのがなんとなくわかったよ。俺もそう思ってたんだ。正直、あの時救護班になんて連絡するんじゃなかったって後悔したよ。ただ、俺とお前の違う所はだなぁ~」
 もう3杯もビールを飲んでいる柴田は呂律が回らなくなっている。
 「お前はウジウジ考えて終わるだろ~が!俺は違うぞ!」
 「何が違うんだよ?」
 「いくか?」
 「どこに?」
 「助けにに決まってんだろ~が!」
 僕は今、ようやく気付いた。なんてバカな後先考えないヤツと友達になってしまったんだろう、と。そして、その考えに乗ってしまう僕もバカなのかもしれない。

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July 13, 2005

-フェリス-第三章

yakei 放射能注意のマークのついた16機のブタちゃん。そのうち8機が突入し残り6機は上空の制圧だった。応援の国際警察がサイレンを鳴らしてはビル周辺を封鎖している。そんな中、僕らの乗った3号機は高層ビルのガラス張りになった地上300メートルの地点を強行突入した。
 ハッチが開き、隊員みなが水を得た魚のごとくビル内に駆け込んで行った。防弾ジャケットにアンチゴーグルと対ガスマスクそして、各々が使い慣れた自分の銃を手にして…その波に体を任せ僕もハッチを駆け出すのだった。

 すでにビル内は戦場だった。グラーブ教徒にとっては僕ら俗世の人間はいろんな意味で邪魔な存在であり、彼らの目的を阻止する侵略者としても位置づけられている。それに対抗する彼らのこの戦闘はジハードとなるのだろう。
「宮崎!こっちだ」
 柴田の声に反応し、四方八方に飛ぶ銃弾を潜り抜け柱の影に隠れる。
「なんだよ、やつら。こんなに兵器持ってるなんて全然聞いてなかったぞ。応戦どころか逃げるだけで精一杯だぜ」
 教団の連中にしてみれば自分を守るために当然の行為なのだ。それを、僕らがとやかく言う資格なんてないんじゃないか…
「宮崎、聞いてんのか?」
「あぁごめん。なんだって?」
「おいおい、ここはもう戦場だぞ!?しっかりしろよ」
そう、言った矢先。彼らの投げた手榴爆雷が目の前で爆発した。その威力は周辺にいた僕らの仲間はもちろん、教団の連中も巻き込むほどのものだ。まさに、彼らにとっては聖戦なのだろう。
「ったく!あいつら!ここが地上何百メートルだと思ってるんだ!自殺でもするつもりか?」
「彼らはそうらしいな」
「俺はあんなやつらと一緒に心中したくないぜ。ほら、きたぞ」
銃声の中に幾度となく爆発の音が散乱する。僕もいつ最後の銃砲を聞くかも知れない状況でなんだか心の中は冷静だった。いつもなら、生きることに必死で自分を守るために銃を構えるだけだった。
「おし、俺らもそろそろ行くか」
「あぁ」
「お前、人の話は聞いてなくても任務くらいは覚えてるよな?」
「コンピュータルームと主要ブロックの破壊だろ」
「そうゆうことだ。つまり、全部の部屋に爆弾投げ込めってことだ」
「制圧すれば破壊なんて意味ないんじゃないか?」
「んなこと、俺に言うな。行くぞ」 
 銃声と怒号が段々遠ざかって行く。煙と埃、そして弾薬の匂いが充満するフロアを抜けコンピュータルームを目指す。教徒達の亡骸を跨ぎながら下へ下へとフロアを下って行く。そこには、僕らの仲間の姿はない。あるのは、ジハードで戦死した勇敢は教徒達だけだった。
 柴田が先陣を切って部屋を確認する。そしてゴーサインが出れば爆薬を投げ込み次の部屋へ…走りぬける僕らの姿はまさに竜巻のごとく去った後に残るのは破壊だけだった。
「誰かいるか?」
柴田の声が響く。
「いいぞ」
爆薬を投げ込もうとした瞬間。違和感を感じた。そこは何もないただの部屋だった。それなのに、たくさんの教徒達の亡骸が横たわっている。
「柴田!」
「あん?」
「ここ、何の部屋だ?」
「ん?」
 その不思議な部屋を覗きこむ。
「なんだろうな?倉庫かなんかじゃないのか?」
「ちょっと中見てくる」
「おい、不意打ち食らって撃たれてもしらねぇぞ。それにまだまだ部屋は残ってるんだからな」
「ちょっとだけ」
「おい!」
 柴田の静止を振りきって中に入る。これだけの教徒達が何もない部屋でなにをしていたのか…ゆっくる足を踏み入れる。銃の安全装置は解除し、奥へと進む。死体が折り重なるように倒れている。なんだか胸騒ぎがする。奥までたどり着くとそこに白いワンピースを纏った女の子が倒れていた。歳は僕らよりも幾分か若い。16~7歳だろう。グラーブ教団の教徒達はみな三角マスクをかぶり、統一された教徒服を着ているため一目で違うとわかった。こんな教団と無関係な子までまきぞいになってしまったのか……近づきゴーグルを取った瞬間。不思議な光景を見た。
「柴田!」
大声で叫び柴田を呼ぶ。
「どうした?!」
血相変えて部屋に飛び込み僕の傍まで来る。
「なんだ?どうした?」
「この子…」
「ん?まだ息があるな…こんな美少女まで拉致していたなんて…ったく。ろくは教団じゃねぇな」
「これ、見ろよ…」
「なんだ?この子、翼があるぞ!?」
この翼を持った少女はどうしてここにいるんだ?いや、それよりもなぜ翼があるんだ…不思議な光景に見舞われた僕らは任務のことなどもう頭の中にはなかった。この子は何者なんだろうか…そんな答えのない問いがただひたすら頭の中を駆け巡っていた。

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July 03, 2005

-フェリス-第二章

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 そして人は今、コロムと言われる巨大なシェルターによって守られた空間で生活をしている。世界の各地に作られたコロムには数百万の人たちが暮らしている。巨大な壁に囲まれたその中では今までとなんら変わりなく生活が出来るが一つだけ違うとすれば、そこままさに閉ざされた空間。分厚い壁が外界とを遮断する。空には対放射能ガラスが張り巡らされ太陽の光はかろうじて届くが、空気は人工的に作られたモノ。そして、その空気こそが今人類にとって一番の財産になっている。そのため排気ガスを排出するすべてのモノは排除されエネルギーだけを生産出来る、すべてのエネルギーは核によってまかなわれている。今までガソリンや石炭に頼っていたモノがすべて核という名のモノに変えられてしまった。それと同時にすべての人々の身近に核が存在することになったのだ…。

「おい、宮崎。そろそろ到着だってよ。」
「あぁ。」
「んだ?その気の抜けた返事はよぉ~。」
「こうゆう任務ってあまり好きじゃないんだよ。」
「んなの、俺だって好きじゃねぇよ。上の命令が出れば下っ端の俺らの出番ってわけだろ。はぁ…こんなことしたくてSPTに入ったわけじゃねぇんだけどなぁ~。ほら、見えてきたぞ。」
 僕と柴田はこのSPTeamに入ってからの同期だ。なかなかひょうきんなヤツでなんでも気楽に考えるヤツだ。いつもくわえタバコをして上司に怒鳴られながらもまったく直そうとしないなかなか肝の据わった男だ。そして、ポリシーは愛用のサングラス。こんな夜中にもかけてるなんて本当に見えているのだろうかと少しばかり心配になるが滅多に外そうとしないのがまたおかしな所だ。
 僕らの所属するSPTはいわゆる警察の中の戦闘エリート集団。いわゆる特殊部隊ってやつだ。こんなご時世だからこそ、色々な思想がある。今日の任務は以前から目星をつけていたある宗教団体。そこは未だに人類が全生命体の頂点に君臨するという思想を捨てることが出来ずにいる。そしてそれをなし得るために核兵器を手にしようとしている。それの阻止。そして、壊滅が今日僕らに下った命令だ。災害援助や人質の救出などはまだ納得がいくがこのような弾圧的任務はどうしても素直に応じることが出来ない。それは善意とかそういうものではない。権力を武器にして正確な事実もないままに弾圧する。そんな気がするだけだ。それは柴田も感じているようだ。
「ほら、見えてきたぞ。あのビルだ。前から思ってたけどよぉ間近で見ると一層ケバケバしく見えるなぁ。」
「柴田、衝撃にそなえろよ。」
「わ~ってるよ」
 今、高度500メートルの所を移動している。大きなブタの貯金箱のような機体はSPTだけが使えるハイテク飛行体だ。見た目はともかく、あらゆる攻撃に対応し科学の推移を集めたまさに空飛ぶペンタゴンなのだ。今回の任務には16機の愛称ブタちゃんが出動している。そして目の前には宗教団体『グラーヴ教団』のビルがそびえ立っている。常に七色の電飾を光らせ、グラーヴという文字が電光掲示板に四六時中掲げられている。
「そろそろくるぞ!」
 この世の中何かが狂っている。それを正そうとしてる僕らは狂ってはいないのか?どちらが正解でどちらが誤りなのか……
 ドガーン!!!!!
「いくぞ。」
柴田の声とともにハッチが開いた。そしてそこから聞こえるものと言えば銃声と悲鳴とそれを嘆く僕の心の声だった。

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June 30, 2005

-フェリス-第一章

cora
 人類がついに全生物の頂点に立った。ありとあらゆる力を得た人類はすべての生物を支配し思いのままに操り、そしてたくさんの命を奪っていった。神の化身と勘違いを始めた人類はこの世でもっとも大きな生命体つまり地球をも支配しようと考えた。しかし、それは技術的にもまた倫理的にも困難を極めた。ありとあらゆる科学技術をももってしてもこの巨大な生命体は支配することが出来なかった。そして、人々の間に支配しようとする者と支配を拒む者が現れた。その互いの歪みは時を経るにつれて次第に大きく裂け、彼 らはついに手にしてはならない武器を振りかざすことになった。それが「核」である。

 核戦争の末に人類が得たものといえば、荒れ果てた大地と放射能の雨とそして、絶望だけだった。

 それから200年が経ち人類は今までの過ちを繰り返すことのないようにと誓いを立てた。そして、大地には青々とした新たな命が芽吹いている。何もない大地にまるで絨毯のように延々と伸びる緑の草木達。そしてそれは、地平線まで続きまるで空をも飲み込むように続いている。しかし、そこにま未だにかつて人類が犯した過ちの不の遺産である放射能が放たれている。今まで人類以外の生命を支配してきたにも関わらず、このような世界の中では人類は自分では何も出来ない赤子のような存在でしかないのである。そして、それをあざ笑うかのように草花は咲き誇るのだろう。

 生きるすべを失った人類は、今ある知識だけを頼りに生きるしかなかった。
絶望の淵に立った人類が手にしたものは科学の力と有り余る生命力、そしてやはり「核」の力だけだった。

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